2012年6月3日日曜日
NHK短歌佳作 ~短歌セラピー4~
いつかまた戻ってみたい屋根裏の
ドアから過去へ、あの異次元へ
子どものころから繰り返し見る夢がある。
自宅(何の変哲もない普通の住宅)の押し入れやクローゼットの中、天袋の上にぽっかり穴が開いていて、そこから階段や抜け道がのび、それまでその存在にまったく気づかなかった秘密部屋や薄暗い座敷に続いている。
未知だったはずなのに不思議なほど既知感のあるノスタルジックな室内空間がひろがっているのだ。
(子宮回帰願望のバリエーションだろうか。)
この「平々凡々な日常からの空間的逸脱」というコンセプトがとても気に入っていて、この種の夢を見た日は何となくウキウキした気分になる。
屋根裏を題材にした作品には、乱歩の『屋根裏の散歩者』やアラン・ガードナーの『ふくろう
模様の皿』などがあって、これらは夢ねこの子ども時代に多大な影響を与え、それが夢にも作用したのかもしれない。
屋根裏や座敷牢と人間心理の関係を分析した春日武彦の『屋根裏に誰かいるんですよ。』には、「幻の同居人」と呼ばれる虚構の存在と共同生活を送る心を病んだ人々の例が語られている。
夢ねこも、この先一人暮らしをすることがあったら、幻の同居人の存在を妄想して、ぶつぶついいながら一緒に暮らすのだろうか。
それも悪くないかもしれない。
この歌は、「NHK短歌」2012年2月号に佳作として掲載されました。
題は「裏」。
選んでくださったのは、坂井修一先生です。
ありがとうございました。
NHK短歌佳作 ~短歌セラピー3~
いまはもうなにも思わずただ生きて時間薬を飲んで待つだけ
時の流れは残酷だけど、最大の癒しでもある。
この歌は、佐伯裕子先生に佳作として選んでいただきました。
題は、「間」。
「NHK短歌」2012年1月号掲載。
ありがとうございました。
NHK短歌佳作 ~短歌セラピー2~
脳といふ入れ子の迷宮さまよへりアリアドネの糸手繰りたれども
ほんとうは、もっと自由になれるはずなのに、自由になれない束縛感、息苦しさ。
縛っているのは、だれ?
呪縛の根源は、なに?
それは自分。
自分の思い、感情、願望、思考……。
脳!
自己意識を意識する入れ子構造。
自分で自分の脳にとらわれ、身動きできなくなっている。
クレタ島のラビリンスからテセウスを救ったアリアドネの糸を手繰っても、
抜け出せない脳の迷宮。
「自分」から自由になれる日は、来るのだろうか。
この歌は、「NHK短歌」2011年11月号に佳作として掲載されました。
選者は坂井修一先生。
題は「迷う」。
ありがとうございました。
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