2010年9月3日金曜日

カポディモンテ美術館展:死と乙女

 このコーナーには、同じく本展覧会の目玉となっているティツィアーノの『マグダラのマリア』もあった(最近、演出家で俳優でもある湯澤幸一郎さんの影響で「マグダラなマリア」と言いそうになる)。

 ティツィアーノの『マグダラのマリア』といえば、豊満な裸体バージョンが有名だが、今回の作品はそのおよそ30年後に描かれたもの(ティツィアーノは微妙に異なる『マグダラのマリア』を何枚も描いている。注文が多かったせいもあるだろうが、画家本人もこの主題をよほど気に入っていたらしい)。

    裸体バージョン。いかにも「罪深き女」といった風情でお色気ムンムン。
    持物の香油壺と、手を胸に当てて仰ぎ見る悔恨のポーズで
    マグダラのマリアとわかる。
            

                裸体バージョンからおよそ30年後に描かれた今回の展示作品。

 ポーズはほぼ同じだが、女性のシンボルである豊満な胸を隠し、若さの絶頂期を少し超えた、やや「翳り」のある女性をモデルに使うことで、より深い悔恨の情が表現されている。この着衣バージョンでは、左端に香油壺があるほかに、右側に頭蓋骨と書物が一種のヴァニタス(人生の空しさの寓意)として描かれている。つまり、メメント・モリ(死を忘れるな)の警句として、よりいっそう宗教的、というか説教じみた色合いを帯びているのが本作なのだ。
(裸体バージョンに髑髏を置いたほうが強烈な対比となって、魅力が増したように思ったりもする)。

 個人的には、『ウルビーノのヴーナス』のような官能的・挑発的で、かなりきわどい表現のほうが、ティツィアーノの魅力が際立つように思う(ゆえに彼の『マグダラのマリア』も裸体バージョンのほうが有名なのだろう)。
 
 このコーナーにはほかにも、建築家で美術史家(『画家・彫刻家・建築家列伝』の著者)のジョルジョ・ヴァザーリが描いた『キリストの復活』や、マニエリスムの極致『愛のアレゴリー(愛の勝利の寓意)』のブロンズィーノの作品『貴婦人の肖像』(『愛の寓意』は好きだが、彼のこの絵についてはあまり魅力を感じなかった)が展示されていた。

 アンニーバレ・カラッチの作品としては、
 十字架をいただく鹿を見てキリスト教に改宗するローマの将軍エウスタキウスを描いた『聖エウスタキウスの幻視』や、ベラスケスの『ラス・メニーナス』のような世界を描いた『毛深いアッリーゴ、狂ったピエトロと小さなアモン』(当時、「動物に近い人間」とされていた毛深い人間や侏儒が、サルやイヌやインコと一緒に描かれている)が印象に残った。

 また、ファルネーゼ家の名品として、金鍍金されたサイの角や碧玉でつくった杯(サイ角の杯は、インドの副王の親戚から贈られたものだそうだ)、宝石をちりばめた黒檀の小箱、翡翠輝石でつくられた聖杯、象牙や琥珀製の聖像など、精緻な工芸品も陳列されていた。